この記事の中身の本質としてはガチの学術記事になります。とはいえ、現在研究がなされている「ホログラム」は実用には程遠く、そもそも「ホログラム」とは何なのかというお話です。
現在の私の立場は「ホログラム」を研究する立場にあります。なので、Googleなんかを使って調べたりすることもあるのですが、日本語で検索をかけると検索結果が酷い物で、ホログラムが何かというのを適切に理解されていない方が多いのが実情です。
この「ホログラム」というのは、一言で言えば「立体視の究極系」であり、学術的なホログラムは一番イメージされるような空中に立体映像が浮かぶそれとは大きく違うのです。
しかし、こういった内容というのは基本的にガチガチの数式で塗り高められたお難しい記事ばかりか、「偽物」について熱く語っている記事ばかりなので、誰でもなんとなく正しいホログラムがわかるような記事を書いてみることにしました。
ちなみに余談ですが、本物のホログラムに関しては今のところは日本での研究が最先端です。
この記事に需要がない?そうかもしれません。しかし、新一万円札に3Dホログラムが搭載された今、「本物のホログラム」が普及する日がくるかもしれません。そして、万人が知るべき知識となりえたときに、誰もが恥ずかしくない知識を持つことを目的とします。
そのため、曖昧な表現や、学術的に厳密には違う表記が存在しますが、逆に知識のある方ならご理解いただける表現かと思いますので、ご容赦いただければと思います。適切な表現を知っている、この表現は避けたほうがいいのではなど、ご指摘がございましたら遠慮なくコメントをください。検討の上加筆修正を行います。
目次
ホログラムって何?
さて、今回は誰でもわかる解説ということで、細かい言い回しは無視しましょう。学術的には「ホログラム」と「ホログラフィー」という表現は別物なのですが、こんなことは一般の方からしたらどうでも良いでしょう。なので、基本的には「ホログラフィー」と書いてあっても「ホログラム」だと思って読んでいただければと思います。因みに、「ホログラム」を製造する技術を「ホログラフィー」と表現するのが正しいです。
「ホログラム」は「究極の立体視」だと冒頭で書きましたが、皆さんが思い描く「ホログラム」の究極系ではの話です。
ホログラムにはいくつか種類があるのですが、全てに共通している項目があります。
それは光を再生する物を差していて、その光に特徴があります。光には色々な情報が含まれているのですが、ホログラムの場合は光に「振幅」、「波長」、「位相」の情報が含まれています。
小難しい言葉で説明してもわかりにくいと思うので簡単に言い換えると、「振幅」は「光の明るさ」を、「波長」は「何色の光か」、そして「位相」が「波の位置」を表しています。
位相以外は何を示しているかわかると思うのですが。波を一例に上げておくと、光は実は波で表されます。
波はこのようなわけですが、この波は周期的ではあるものの、波の位置のような概念があり、これが「位相」です。まあ正直、わかる方はぱっとわかると思うのですが、何も知らなければ難しいと思うので、光は「明るさ」と「色」以外に「位相」っていう別の情報が含まれているのだなと思っていただければよいと思います。
ホログラムに含まれるのが上述のように、「振幅」、「波長」、「位相」ですが、これは私たちが見ている光の全てです。
つまり、ホログラムというのは、光の全てを再生できる技術のことを言うのです。
光の全てを完全に再生できる技術、それがホログラムなのです。
3D映像とは何が違うの?
では、これが昨今の3Dモニター等と何が違うかというと、現代のモニターで再生でき、私たちが映画館などで見る立体映像やテレビの画面の光に含まれる正しい情報というのは「振幅」と「波長」のみなのです。つまり、一部の情報が欠けている光を私たちは常に見ているということなのです。
これが何か違和感をもたらすのかという話なのですが、人間が立体を検知する要因に、輻輳(輻輳)、焦点調節、両目視差、運動視差が存在しています。
これは全てを複合的に解説すると難しくなってしまう気がするので、一例をあげて説明しましょう。
立体映像は一般の方から見れば不思議なもので、遠くの画面を見ているはずなのに飛び出したりするわけですよね。これは二つの映像を微妙にずらすことで立体に見えるようにしているわけですが、実際には手前に物はなく、画面を表示しているスクリーンに目の焦点が合っています。
本当はもっと違う表現の方がいいのかもしれませんが、簡単にするとこんな感じです。実際に焦点が合っているのは奥の方なのに、なぜか手前の方に人の像がみえる。
これは人間の機能的にはすごく気持ち悪く、所謂3D酔いやVR酔いと言われるものがこの「輻輳調節矛盾」が発生することにより酔いを発生させていると言われています。
ただの3D映画では運動視差も実現不可能ではあるのですが、VR用のヘッドマウントディスプレイなどは、運動視差の問題も解決されてはいます。ですが、輻輳調節矛盾だけはどうしても実現ができないのです。
何が言いたいのかというと、現代のモニターなどでは、最初に紹介した、 輻輳(輻輳)、焦点調節、両目視差、運動視差 という生理的要因を全て満たすものは作れないというのが、立体映像では問題になるのです。
なぜこの問題が解決できないのかというと、モニターが一部の光の情報を欠けた状態の光しか再生できないというのが原因で、これに関しては余程の技術革新がないと難しいです。
また、モニターなどに欠けている「位相」という情報は現代の機械でも基本的に高い精度での測定はできません。もしかしたらあるのかもしれませんが、私は知りませんし、あったとしても非常に高価でしょう。
つまり、私たち人間には完全な物体の光の再生という技術には達しておらず、一番それっぽく見える技術が映画館などで見れる立体映像やVR機器の立体感なのです。
まとめると、私たちが普段目にする立体映像は、光の情報が一部欠けていますし、生理的要因を全て満たさないと、かなり不完全な立体映像なのです。
深くは踏み込みませんが、なんでこれが実現できないのかなどが気になる方は光学を勉強してみるのも良いかもしれません。
代表的な偽物
調べれば出てくる偽物なんていくつかありますが、ここでは「ペッパーズゴースト」という名前を紹介しておこうと思います。
これは何をしているかというと、本当にただの子供騙しで、物体を置き、その上に斜めにしたハーフミラーなりガラスなりを置きます。
このガラスの上にプロジェクターなどで光を当てて、反射した光をさも空中に映像があるかのような状態にしています。
これはホログラムでもなんでもありません。偽物です。
それ以外にも名前もなき偽物はたくさんあり、箱のなかでLEDを高速で回転移動させることでさも立体に映像があるように見せたりするの物や、危険なもので言うと、空中でプラズマを発光させるという安全性の欠片もないようなものがあります。
これらは空中に映像のようなものが出てくるというのは間違いありませんが、別の項で紹介した通り、再生光に「振幅」、「波長」、「位相」の正しい情報が含まれていないので、これはホログラムではありません。
じゃあ本物のホログラムって何なのかという話を次の項でします。
ホログラムの種類
ホログラムの種類の話を今から書きますが、その前にどんなものが将来的にできるかなど現実のお話をしましょう。
突然ですが、光って空中で突然消えたりしますか?しませんよね。例えばどこかで光を発したのを横からみたらぼんやり広がって暗くはなるものの、突然あるところで真っ暗になったりする場所はないですよね。
これは光の直進性に起因するもので、簡単に言えば現実的にはものにあたったり、跳ね返ったりしない限りは空中で突然光が途切れることはありません。
なので、映画に出てくるような、手のひらで立体映像が動く。それは光の原理的に絶対にありえません。ということを踏まえたうえで現実的な、学術的なホログラムの話をします。
さて、現在使用/研究されているホログラムは大きく分けると3種類存在します。以下の3種類です。いや、実際はもっと色々な名前がついているんですが、代表的というか、知られている名前を紹介しようと思います。
- レインボーホログラム
- アナログホログラム
- デジタルホログラム
これを順番に紹介します。
レインボーホログラム
レインボーホログラムは他のアナログホログラムやCGHと違い、立体的に見えるというホログラムではありません。
じゃあ何なのかというと、ある光を当てると模様が浮かび出るようなものになります。これがホログラムなのか?と思われるかもしれませんが、ホログラムとは決まった「振幅」、「波長」、「位相」の光を再生するものなので、れっきとしたホログラムです。
これが非常に身近なもので、何に使われているかというと、日本のお札やギフトカードなどに使われていて、偽造防止に使われることが多いです。
これ新しい一万円札に使用される3Dホログラムですが、従来の物にも同じくレインボーホログラムは使われています。新しいお札の何がすごいというのは、傾けたら像が変わるホログラムなところですね。
詳細は伏せられているので憶測でしかありませんが、レインボーホログラムの括りでもあり、後に紹介するCGHの一種であろうと考えられます。
大きく分ければ実際はアナログホログラムとデジタルホログラムなので、レインボーホログラムは一番身近でわかってもらえるかと思ったので紹介しておきました。
アナログホログラム
これは比較的古典的なホログラムで、50年以上前から作成方法が存在しています。
これは具体的に何をしているかというと、簡単に言えば写真のように物体を撮影して作成するホログラムです。
撮影と言っても実際に気軽に撮れるものでもありません。実際の撮影時の光学系を示します。
まあ、色々機材が書いてあってわかりにくいと思いますが、簡単に言えば光を二つ用意して、片方を物体に当てて、もう一方を記録材料に当てるという形です。
記録材料にはフォトポリマーというものを用いていますが、詳しくは触れません。今回はBayfol(R)HX200という記録材料を使っています。
さて、これは珍しく実物を紹介できるのでしておきます。この物体を赤色のレーザーで証明し、赤色の光で再生できるような感じで撮影しました。
これを撮影したものに照明を当てることでホログラムの再生が可能です。
手前に見える配線がつながっているのが証明用LEDライトで、中央にある黒い枠が額縁、真ん中に微妙に色が変わって見えるのが、撮影用の感光材料Bayfol(R)HX200です。記録のためにガラスに張り付けています。
これを実際に照明してみるとこのような感じになります。
これを少し傾けるとこんな感じになります。
さらに、大きく回すと限界がきてぼやけます。
これが本物のアナログホログラムなのですが、正直写真越しだと凄さがわからないと思います。実際に奥に物体そのものがある感じで違和感なく非常に綺麗なので、実物は感動します。
しかし、この撮影の工程を見ての通り、非常に面倒だったり、実際にある物体しか撮影できなかったり、そのほか色々制限があるため、研究はほぼされていません。
撮影するにしても1回1回こんなことするのは手間なのもありますし、証明の問題などもあるので、こちらはそうそう世の中で見ることは無いでしょう。
現在盛んなのは次のデジタルホログラムです。
デジタルホログラム
CGなどに代表される、仮想物体の再生を目的としたホログラムのことです。
CGH(Computer Generated Hologram)という名称もあったりします。
ちなみに、一番最初に紹介したレインボーホログラムの渋沢栄一のホログラムもこの部類に入りますね。物体としては存在しない絵をホログラムにしているので当然ではあります。
製作の際に、数千万円とするような、高価な半導体製造装置の一部を使って製作しないと(それほどに高精度な機械使わまないと)綺麗なものが作れないというのが大きな問題です。
DVDプレイヤーなどを用いた、安価な製造装置の研究が行われた過去が存在しますが、現実的には綺麗なものを作るには高価な製造装置がいるということが問題になっています。
非常に研究が盛んな分野なのですが、再生の際はアナログホログラム同様に証明が必要になるなど、実用化に向けてはコストや再生方法など課題が多く存在するため、こちらも世の中で見ることはほぼないと言って過言ではありません。
何年後かに実用化された場合に目にするのはこのデジタルホログラムになるでしょう。
まとめ
難しい話をなるべく簡単にしたつもりですが、それでも難しい部分や言葉が足りていない部分もあるでしょう。
しかし、世間にあふれているホログラムなるものはほとんど偽物であることをわかっていただけたかと思います。
そして、現在の立体的にみるためのホログラムも色々問題を抱えているというところで、なかなか実用化には至っていません。
お札で3D(レインボー)ホログラムが採用されたというのもあり、今後偽造防止の観点からも需要が高いかと考えられますが、是非雑学として本物のホログラムというのがどういうものかということを知っていただ来たいのです。
いつかホログラムが実用化されたり、動くホログラムディスプレイが実現する日も来るかもしれません(これも莫大な計算や情報量が問題になってはいますが…)
何はともあれ、正しい知識を知ることに損はありません。ホログラムが気になったのであればよく調べ、そして学術的に学ぶというのであればしっかり専門書を読み理解する必要があります。
また、内容をかみ砕くために相当省略している部分がありますので、本気で勉強されるのなら、ここのことは忘れて1から勉強するのが良いでしょう。
いつか立体ホログラムが実用化される日がこないかと待ち遠しいです。